五十音小説 あ

あ「雨」

五十音小説というのを始めてみます。

勝手に考えました。他の人がもう思いついて始めているかもしれませんが、パクリではありません。

 

今日は1日目なので「あ」です。

「あ」で一番最初に思いついたのが雨でした。この時期(梅雨)にぴったり。

それでは、どうぞ。

 

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 雨の日は嫌いだ。ジメジメするし、気分は落ち込むし、洗濯物は乾かない。私は窓の外の滴る雫を目で追いかけながら空模様を伺う。

 はぁ……。今日だけで推定10回目のため息をつく。今日は久しぶりのデートの日。せっかくメイクもバッチリ仕上げて髪の毛もセットしたのに、この風と雨じゃ家を出て3秒で崩れるだろう。恋人はわざわざ遠くから3時間もかけて会いに来てくれるというのに……。可愛い私を見せられないなんて。

 落ちる雨粒を目で追いかけてても時間はすぎるだけだし、待ち合わせの時間は迫っている。そろそろ向かうか。

 私は恋人が到着する駅へと歩き出した。家で想像したよりも雨脚は強く、風も強い。肩が濡れないように傘を傾けてみるけどそんなの全く意味がない。歩いて10分もしない距離の駅なのに背中がじっとりと濡れてしまった。

 恋人の到着まであと3分。雨によって落ち込んだ心が次第にワクワクしてくる。そういえば、今日は動物園に行く予定だったけどこの雨じゃ予定変更かな。カフェでも行って、ご飯食べて、映画でも見ようかな。前回も映画見たような……?まあいっか。

 次第に改札から出てくる人が増えてきた。あの人もこの中にいるかな。家族連れやスーツを着た人たちに紛れる人が1人。いた!!私の心のときめきは最高潮。

 「響希(ヒビキ)!」

 あの子が私を呼ぶ。周りの目なんか忘れて一目散に駆け寄る。

 「会いたかった!」

 私を強く抱きしめると嬉しそうな笑顔に。かわいい。

 「久しぶりだね。私も会いたかったよ。今日は動物園の予定だったけど雨が降っちゃったね。どうしよう?」

 「動物園行こうか。雨だけどきっと楽しいよ。」

 私もあなたがいればそんな気がする。

 荷物をコインロッカーに預けて私達は動物園に向かった。

 「朝からずっと雨で響希はため息ついてるだろうなって思ってたよ。」

 「バ、バレてる。でも今日は動物園には行かないと思ってた。」

 「どこに行くと思った?」

 「カフェとか映画かなって。」

 「雨の日の動物園って意外といいんだよ。」

 2人で狭い傘の中にくっついてヒソヒソと話す。雨のせいで冷えた体が少しだけ温まる。

 到着した動物園。人がいなくて知らない人が見たら休園日なのかと勘違いしそうだ。

 大人2人分にチケットを買って入場。風は弱まってシトシトと降る雨が私達を濡らす。

 サイやカバは雨が降ってても水浴びをしてる。鳥たちは濡れないように影に隠れてて、ライオンやキリンはずーっと餌を食べてる。

 いつも行く動物園とは変わらない光景に少しホッとする。雨脚がさっきより弱まって歩きやすくなってきた。

 園を半分くらい回ると足が疲れてきた。

 「少し休まない?」

 「そうしようか。あそこに屋根がついたベンチがある。そこに行こう。」

 ずっと傘を持ってくれているあなたは疲れているはずなのに終始笑顔だ。

 「雨の動物園いいかも。」

 「でしょ!人少ないし動物もちゃんといるし。」

 「うん。いつも行くと混んでたから今日はゆっくり見れるね。」

 人気がない動物園はまるで私達だけが取り残された世界のようだ。屋根に当たる雨音が心地よい。

 「まるで2人だけの世界だね。」

 「うん。」

 あなたの手が私の左手を優しく握る。

 「誰もいないからさ、こんなこともできちゃいそうだよね。」

 あなたの唇が優しく私の唇に触れた。

 鼓動が速くなり体の温度が上昇する。

 雨の日、嫌いじゃないかも。